アンチリテラルの数秘術師

第17回電撃小説大賞・銀賞受賞作。
主人公は高校生。妹が学校で流行っていた赤帽子を名乗る怪人が願い事を叶えてくれると言うオマジナイをクラスメイトと試した所、異常な事態に巻き込まれてしまい...と言う感じに話が始まります。

面白かったです。確率と数字、そして数学が乱舞する異能バトルもの。設定だけ読むと小難しそうですが、実際にはそんな事も無く。雰囲気は残しつつも分かりやすくまとまっており、楽しめました。世の中にある、「起こり得る事象」の確率を直接操作する怪人を相手に、数秘術を使うヒロイン・羽鷺雪名は数字と数学をもって立ち向かう。この設定が好きです。
主人公は「数字が見える」と言うだけで、他には何の能力を持たない普通の人間なのですが、怪人の巻き起こす事件から妹を救うために身体を張って危険に飛び込んで行きます。無力だけど守りたいものがあるから本気になれると言う展開は大変好みです。
ヒロインの羽鷺雪名は主人公にとある場面を目撃されてから仲良くなっていくのですが...表情が良く変わるのが素敵でした。すぐに顔に出る訳では無く、普段はどちらかと言えば冷静に振る舞っています。でも、時折覗く笑顔、そして何より、自身の過去から来る声のない叫び。無限にとらわれて凍っていた心が、怪人を追いながら主人公と共に戦う事で徐々に融けていく展開が素晴らしかったです。

世界は確率に支配されている。これはある意味心理かも知れませんが、その確率だって決して不変のものじゃない。未来は選ぶのではなくて切り開くもの。そう突き進む主人公は眩しかったし、ヒロインと結んだ約束も最高でした。読み終わってとても満足。是非とも続きが読みたいです。