”葵” ヒカルが地球にいたころ…… 1

野村美月の新作。顔と目つきが怖くて、周りから恐れられているけれど性根は普通に真面目な男子高校生・是光が主人公。ある日、同級生で女たらしで有名な男・ヒカルが突然死んでしまった。その幽霊が何故か是光に憑き、ヒカルの生前の心残りを晴らす事に協力する事になったが...と言うお話。

とても面白かったです。源氏物語をモチーフにした作品で、幽霊・ヒカルは文字通り光源氏。この1巻のヒロインはサブタイトルにある通り、"葵"...葵の上です。婚約者だけど、ヒカルはあまりにも大事で他の女性と同じようには接する事が出来ず、自分の気持ちを伝えられない。葵の誕生日を目前に死んでしまい、彼女に贈るはずだったプレゼントを是光が代わりに贈る、と言う展開でした。

見た目の怖さから不遇な扱いを受けて友達がまるでいない是光。女性受けが良すぎて男性からは疎まれ続けたヒカル。そんな2人が巡り会い、最初はずっと一緒にいなければならない状況を疎ましく思った是光だけど、徐々にお互いの境遇に共感し、親友となっていく展開が最高に熱かったです。いいなぁ、こう言う友情。
葵はヒカルの名前を出すだけで拒絶するぐらいの頑なさで、是光とヒカルを拒絶していきます。途中であまりにヒカルの事を悪く言われて怒る是光とか、でも初めての友人の望みを叶えたいと再び積極的にアタックを繰り返す姿には心打たれました。
そして徐々に凍った心が融けていく葵。もうヒカルは死んでしまっていないし、幽霊となった彼の声が聞こえるのは是光だけ。でもヒカルの想いはちゃんと届いたし、是で前に進めるよね。良かった。

ヒロインの中では、クラスメイトの式部さんが好きです。男嫌いで、でもそれに屈するのが嫌で恋愛ケータイ小説を書いたら人気がでてしまい恋愛の達人と誤解され、でもホントの事が言えなくてサイトに来る恋愛相談には律儀に答える。もうこの設定だけで素敵過ぎるんですが、是光がとあるきっかけでこの事を知り、葵の事を相談してからの展開が大好き。最初は是光の事を怖がりつつ、アドバイスするだけだったのが、段々怖い人じゃない、良い奴なんだと気付いていく展開が好み過ぎます。最終的にはきっちりと恋に落ちましたが...報われるんだろうか。どう考えても、『文学少女』のななせと似たようなポジションなんですが...。
しかし、他のヒロインが源氏物語の登場人物をモチーフにしている中、式部さんだけは作者たる紫式部の名前を冠しているので、扱いも特別だよね? と言う一縷の望みがあります。幸せになるよね?

こんな感じでとても楽しめた1冊でした。ヒカルが既に死んでいる以上、いつか成仏する日が来たら是光とも別れる事になる。あとがきにもはっきりと「お別れの物語」と書かれているし、切ない展開が続くと思いますが...その別れが笑顔で迎えられる事を願いながら続きを待とうと思います。