遠まわりする雛

あまりにも面白かったので思わず筆を執りました。古典部シリーズの4作目。単行本発売から6年。アニメ化も経て、こんな事は語り尽くされているとは思うのですが、それでも書きたかった。
高校入学早々の頃の話から、夏、正月、バレンタイン...と、時間の経過と共に書かれた7本の話が収録されています。時と共に徐々に、本当の徐々に主人公たちの距離が縮まっていく過程が良かったのですが、なにより、最後に待ち受けている表題作の『遠まわりする雛』が本当に素晴らしかった。
『雛』とは勿論、お雛様の事ですが、しかしそれ以上に、いまだ成長しきっていない、えるや里志、そして奉太郎の事。
『遠まわり』は祭りの行程が遠まわりせざるを得なくなった事を指しているけれど、里志がチョコを砕いた事であり、ラストで奉太郎が言いたい事とは違う事を口にした事でもある。えるだって、自分の針路を早々と決めているようにみえるけれど、そこに至るまでには悩んだ事でしょう。
良いと思った相手や、やりたいことがある。そうしたい、と言う結論は出ているだろうに、でもそこに飛び乗っていいのか悩む登場人物たち。縮まった距離とは裏腹に、縮まった事に気付いたが故の『遠まわり』。その心境を考えると、奮えが走る程に面白かったです。傑作でした。