アニソンの神様

第1回『このライトノベルがすごい!』大賞で大賞を受賞した作者の新作。主人公はドイツから日本の高校に留学してきた女の子・エヴァ。日本のアニソンが大好きで、是非とも日本でアニソンバンドを作って歌いたい! と言う夢を持っていた彼女は、早速メンバー集めを始めるのだが...と言う感じで話が始まります。
途中からネタバレありで感想を書いているので未読の方は注意。

とても面白かったです。アニソンを題材にした作品ってこれまでありそうでなかったと思うのですが、様々なアーティストや楽曲が実名で登場しているのを見ると新鮮な気分になりますね。作中だけでなく、各章のタイトルにもアニソンが使われているあたり、こだわりを感じました。
また、バンドものとしても素晴らしく良かったです。一人の少女が夢を叶えるために奔走し、メンバーを集めてライブを成功させる。最初は乗り気じゃなかったメンバーも、主人公の熱意に徐々に本気になっていって最後にはこれ以上ない興奮に包まれる...と言う展開は王道なのですが、王道を王道として楽しめる完成度の高さが最高。音楽を楽しむために頑張っているメンバーの姿が、その楽しさの結実であるライブシーンで最高潮に映えるって素敵な事だと思います。

また、この作品を完全に楽しむためには、アニソンに対する知識とか気持ちが少なからず必要だと感じました。持ち合わせてなくても十分面白いとは思うんだけど、知っていた方が確実により楽しめる...みたいな。その点、ライブ好き、アニソン好きな自分がこの作品を読めた事はとても幸せだったと思います。存分に楽しんだよ!!


ここからはネタバレを気にせずに書きます。
自分が一番嬉しかったのは、最後のライブシーン。話のラストに文化祭でのライブシーンがあるのですが...ここに全てを持っていかれました。たった3曲、時間にしたら20分もないような短いライブですが、そのセットリストが素晴らしくて。会場、そしてライブの様子が音声と映像付きで頭の中に流れました。イントロからしっかりとボーカルを聞かせるパートのある『コネクト』で始まるライブ。初めて見るアーティストってやっぱり最初が肝心で、上手いのかなどうなのかな...と言うのは気になる所。その1曲目として、ずば抜けて歌の上手いエヴァの魅力を存分に引き出すのにピッタリな曲だと思います。
『コネクト』は盛り上がる曲調ながらもどこか切なくてしっとりとした雰囲気があって、次の曲への繋ぎが、アップテンポなものが続くのかバラードでくるのか...と判断し辛いものがあるのですが、そこに考える暇を観客に与えないように間髪入れずに響き渡る「私の歌を聴けぇぇぇっ!!」の声と『射手座☆午後九時Don't be late』。自分がその場にいたら、「こうきたかぁぁぁぁ」と笑いながら全力で跳ぶ姿が容易に想像出来ます。シェリル派としては盛り上がらざるを得ない展開。
そしてラスト1曲、何が来るのか。早く知りたいんだけど知ってしまったら終わってしまう。そんな葛藤の中、アニソンと夢に対する想いを情熱的に語ったMCから、目に飛び込んできたのは『Butter-Fly』の文字。ここで泣いた。ずるい。これはずるい。この流れで『Butter-Fly』が来て、何も感じないなんて無理無理無理。しかも歌詞付きで、演奏しているメンバーの心境を語りながら、どんどんと熱く、会場の興奮と合わさって加速して、高みへと突き進んでいくんですよ? ここで泣かずにいつ泣くの。
正直な所、バンドメンバーが呆気無く見つかったなぁとか、ギターの皇帝デレるの早過ぎだろとか、アニソン文化を日陰のように扱っている所に、わざと書いてると分かっていてもイラッとしたり...とか、読んでいて色々と思う所もあったのですが、それを全部全部吹き飛ばしてくれる、最高のライブだったと思います。このメンバーのさらなるライブを是非とも観てみたい。そう思わせてくれる1冊でした。大満足!!