エスケヱプ・スピヰド

第18回電撃小説大賞・大賞受賞作。
戦争が終結し、戦う目的を失った戦闘兵器達が暴走して廃墟となった街が舞台。20年の冷凍冬眠から目覚めたヒロイン・叶葉は仲間たちと共に廃墟を探索中、戦闘兵器に襲われてしまうが、一人の少年と別の戦闘兵器に助けられる。少年は九曜と名乗り、その正体は、9体作られた最強の戦闘兵器・《鬼虫》の《蜂》だった...と言う感じに話が始まります。

流石は大賞、と言う雰囲気のあった作品でした。兵器として作られ人間的な感情の薄い九曜が、ヒロインと出会って徐々に人間味を身につけていく展開はとても王道。しかし、兵器同士のバトルは読み応えがあるし、特徴あるキャラクタたちの会話は楽しい。読みやすくシッカリした文章で堅実に話が紡がれていく所も良かったです。
かつて大恩ある人物からもらった言葉を大事にしてひたすら前向きに生きる叶葉と、戦うために作られ、その目的のために存在し続けてきた九曜。2人の生き様は対照的だけれど何処か似ていると思いました。九曜は人に近づけば近づくほど、自分の存在意義を考え、敵がいなくなってしまった時代では何をして生きていけば良いのかを悩む。そして迷いに迷い、強敵との戦いを前に一度は方向を見失うけれど、それでも最後には何が大事なのかを見定め、覚悟を決める展開は熱かったです。こう言う王道は大変好みです。「いってきます」「ただいま」って何気ない挨拶だけど、良いよなぁ。

しかし、どこの誰と戦争をしていたのか、何処かに書かれていたっけ? 見当たらなかったと思うのですが...意図的に伏せてるのかな。